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日曜日
6262011

子離れ/親離れ(その八)

夫の子育て参加を上手に引き出すには?

仕事が忙しいからと子育てを妻に任せっきりの夫を持つ方々も多いでしょう。しかし、夫が子育てに加わることは、妻の負担が減るという物理的な理由だけではなく、子供の成長にどうしても必要なことなのです。子供の問題行動には必ずと言ってよいほどに父親不在が関わっています。ただ、父親不在は必ずしも父親だけの責任ではなく、母親の態度やアプローチにも問題があるようです。

ある時、中学と高校生の子どもを持つ40代の主婦が来談しました。子供のことで夫とじっくりと許し合いたいのに仕事やつき合いで遅く帰ってきてまともには話ができません。それに子供もますます反抗的になって、自分一人で子供の問題をかかえ込んでいます。夫は子供のことはすべて妻に任せっきりです。もっと父親としての自覚を持っていっしょに子供のことを考えてほしいのですが、いったいどうすればいいのでしょうか、と言うのでした。

思春期の中・高校生は人生の中で最も多感な時期で、親にとってもどのように対応してよいかわからなくなる場面に遭遇することも多々生じてきます。特に思春期の子育てには父親の参加が最も必要なのですが、仕事の責任が重くなる時期と重なることもあって、父親不在と同じ状態になることも多いのです。

思春期は発達段階的に自我の再構成の時期であり、親や教師などから教えられた価値観や倫理観などをいったんこわして、あるいは否定して自分でもう一度検討し、自分なりのものを形成していく時期です。

ですからこの時期の反抗的な態度は特別ではありません。親がこのことを理解して対処すれば子供の反抗的な態度に対して感情的にではなく、むしろ不安定さや心の葛藤を理解する態度で接することができ、自我の再構成を助けることになります。

子育てには、父親としての役割分担がある:しかしこの時期に父親が子育てにかかわるか否かで事態はだいぶ違ってきます。この父親のように子供たちと充分なかかわりを持とうとしないと母親が知らず知らずのうちに父親の役割をも担うようになります。

両親そろっている場合で話すと、母親の役割は子供をそのままの姿で受容するという母子一体に対し、父親の役割は逆で、父親の真の権威を用いて子供の衝動的な行動に制限を加え、個として確立して自覚させることです。父親が不在だと母親が父親の役割を担おうとして母性的なものを押し殺して子供にとって必要な受容されることが体験できないまま自立が求められるので情緒的に不安定になるのです。また母親の負担が重すぎると冷静さを失って感情的になり、子供たちはさらに反発するという悪循環に陥ってしまいます。父親はこのむずかしい思春期の子育ての着任を仕事などを理由に逃避することも考えられます。

以上のことからこの時期を乗り越えるには父親を子育てに引き込む必要があります。そのために父親に今の状態を冷静に説明し理解させることが重要です。

少しずつ子育てに引き込むのがポイント:このときのタイミングがたいせつです。疲れているときを避けてゆとりのあるころ合いを選ぶことが大事です。疲れているときに責めると防衛的になって仕事が忙しいのだ、と子育てから逃れようとするでしょう。

次に漠然とした命令口調ではなく、ここのこの部分をこのように担ってほしいという役割分担を具体的に提案することです。たとえば「どこの大学を受験するか悩んでいるから相談に乗ってやってほしい」などと。命令口調でいうと、父親は今まで子育てに無関係であったためその責任が自分に押しつけられるという恐れに圧倒されて拒否するかもしれません。少しずつ責任を担っていく中で子供の状態がわかり父親の役割や責任が自覚できるようにしていくことです。

父親の役割の提案の一つとして、週に1~2回はいっしょに夕食をし、子供たちと時間をともにするところから始めてはどうでしょうか。それだけでも父親の役割の一部を果たすことができるのです。もし「子供の塾や夫の仕事が忙しいからそれは無理でしょう」とあきらめの気持ちがあるならその無力感をとり除くことです。食は生活の基本ですから始めは形だけでもいいですので、いっしょに食卓を囲むように努力してもらうことです。それを続けることによって家族としてのつながりが生まれます。そして食卓を囲んでコミュニケーションをとる中で、父親としての役割を自然に果たせるようになるのです。